「海の沈黙」 ジャン=ピエール・メルヴィル ”La Silence de la Mer” Jean-Pierre Melville


1947年 88分 35mm

アンリ・ドカによるスタンダード撮影が見事なメルヴィルの処女作。
そう、処女作なのだ。処女作にしてこの禁欲的な時間=空間を作り上げた聡明さ。
終幕後、立ち上がれないほど圧倒された作品は本当に久しぶりである。

何が圧倒的なのか? およそその言葉から想像つくことのできる、ダイナミックなイメージや音響設計とは真逆の、ミニマリズムの持つ豊穣さを掴み取っている点が圧倒的なのだ。
魚類系の顔をしたドイツ人将校をスタンダードの画面にぬぼうっと立たせ、テキストを朗読しつつ、狭い室内空間を移動させる。その時、同じ部屋で同じ空気を 吸っているはずのフランス人の老人と姪っ子は、押し黙ったまま視線を決して合わせず、言葉も視線もかみ合うことのない重苦しい空間が延々と引き延ばされ る。そして、将校が悲壮の覚悟を持って娘に求婚の申し込みを仄めかしたとき、初めて姪っ子の娘(どこかブレッソン「ラルジャン」のカロリーヌ・ラングに似 ている。)が上方を見上げる。そのクローズアップの激烈さ!いつも伏し目がちな女性の瞳があらわになるだけではなく、ライティングも
全く異なり、まるであの暖炉のある居間から切り離され、別の異空間に頭部だけ移植したかのような、美しいクローズアップがカメラ目線で示される。この衝撃。
最後近く、ドイツへ戻ってゆく将校へ別れを告げる代わりに、上官に反逆をする勇気をもつよう示唆する老人に対し(記憶が曖昧だが、たぶんそのようなメッ セージが書かれた書籍にしおりを挟み、ドイツ人将校の鞄の上に置いていたのではないか)、将校は無言で長らく世話になった農家から出て行く。
そのとき、じっと内部の暗がりで身を潜め、将校の旅立ちを受け止めている老人のショットが3度も示される。視線を全く合わせることのない二人が分かれる時 間を、画面を交互にカットバックするだけで、これほど濃厚な時間としてクリエイト出来てしまう、そのことに改めて気付かされた。
そう、映画は単純に深く掘ってゆくものなのだと。農夫が大地を鍬で耕すように。


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