視点の低さに惚れますー鈴木英夫

「サラリーマン目白三平  亭主のためいき」

1960  鈴木英夫
笠智衆 望月優子 水野久美 団令子
製作 金子正且 原作 中村武志 撮影 小泉福造

忙しさにかまけて距離を置いていたが、ついに鈴木英夫特集@シネマヴェーラへ。傑作「その場所に女ありて」「非情都市」「大番頭 小番頭」などはアテネ・フランセでの特集で見たのだが、今回は目白三平シリーズなど未見のものを。

シネスコ(正確には東宝スコープ)で笠知衆を捉えたクローズアップは、見慣れておらず、思わず驚いている自分を発見したが、そんなことはどうでもよく、水野久美、団令子などの女優陣が素晴らしいというしかなく、突出した美貌の持ち主でもない、程良く小綺麗な娘さんを凜と輝かせることができる鈴木英夫の演出力に感心した。
小銭の入った貯金箱、物売りのじいさん(左卜全!)が子供に売るゴム紐、そして笠知衆の靴という小道具がサラリーマン中流家庭の不和を奏でるドラマツルギーに見事回収されており、その語りの経済性に、改めてこの時代のスタジオシステムの脚本家の充実ぶりを体感した。新しい革靴を履いてみることが、こんなにも感動的になりうるのは、まさに映画だと思う。


「危険な英雄」
1957   東宝   92分    鈴木英夫
石原慎太郎、志村喬、仲代達矢、三船敏郎、司葉子、多々良純など
製作 金子正且 撮影 中井朝一 音楽 芥川也寸志

日本の組織社会の歯車となり労働することが、個人を疲弊・歪曲させ、時に極端化させることを見事に描いた作品。「マスコミのスクープ合戦の中、誘拐された少年の身を案ずる者はいなかった。(プログラムより)」増村は、「巨人の玩具」「黒の試走車」など資本主義社会の悪をイデオロジカルに斬って見せたが(つまり図式的アプローチ)、鈴木英夫はあくまで個人が同僚や上司との関係の中で、自分の判断力・倫理観が剥ぎ取られ、企業倫理を体現する労働装置(ここでは「ブン屋」)に染められてゆくかを描ききった。つまり、イデオロギーに基づき上から視線を注ぐ増村と、地べたに這いつくばりアクチュアルな人間関係をドキュメントしつつ、社会批判を試みる鈴木英夫。共に鋭い批判精神の持ち主であるが、視線の高低差がその作家性そのものになっている。この極端化したブン屋の狂気は、1960年の傑作「非情都市」に繋がる。

若かりし某知事の台詞回しはヘタというしかないのだが、全くムダのない演出のスピード感と、勢いばかりの新米ブン屋の青臭さを、役そのものの色にしてしまう好判断で、いつしか全く気にならなくなっていたのは、鈴木英夫の演出の腕そのもの。ラスト誘拐事件被害者家族(司葉子)に人殺し呼ばわりされてもされても、全く動じることなく特ダネを追い続ける彼の悪党ぶりはすがすがしい。

彼が勤める「東都新報」の社用車の疾走と、風にブルブルとはためく社旗のモンタージュは気持ちよく、マスコミ記者たちに日々迫るプレッシャーと緊張感を自動車の運動そのものが表象している。

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